研究内容

励起子-光子-分子振動の結合状態に起因するレーザー発振

 TPCOの一種である2,5-bis(4'- methoxybiphenyl-4-yl)thiophene (BP1T-OMe)の単結晶をパルスレーザーを用いて高密度光励起したとき,励起時間原点から約300 ps遅れて発光が立ち上がる遅延時間を伴ったパルス型発光が室温で観測されました。このような遅延型パルス発光は,気体分子や固体結晶における超蛍光や無機半導体マイクロキャビティでにおける励起子ポラリトンに基づくレーザー発振で観測されています。先行研究における300 psに及ぶ遅延時間を伴ったパルス型発光は,超蛍光やポラリトンレーザー発振と現象的に酷似していますが,室温で外部共振器を持たないマクロなサイズの単結晶共振器(>100 μm)中で自発的にコヒーレンスを形成し得るのか,また励起子-光子強結合が実現するのか等,未解明な点がありました。

 最近,TPCOの一種であるBP3T単結晶の光励起レーザー発振特性を調べたところ,レーザー発振帯に対して複数に分裂した発光スペクトルが観測され,その発光スペクトルに現れたモード構造を基にエネルギー対波数の分散プロットを作成したところ,キャビティフォトン,0-0励起子と分子振動と結合した励起子を考慮した現象論的ハミルトニアンにより実験結果を良く再現できることがわかりました。これは,分子振動が結合した励起子ポラリトン状態がマクロな自己共振器中で形成されていることを示していると考えられます。これは,室温下で励起子-光子-分子振動の強結合状態を実証した初めての結果になります。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adom.201900136

https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsphotonics.2c00123